現場リアル

【介護施設の倒産ラッシュ】今介護業界で何が起きているのか?

こんにちは「介護コンサルをしながら、現役介護士を両立」がモットーのごろにぃ(@goronyi_kaigo)です。

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「低給与」「悪待遇」に頭を抱える介護士のみなさん。
ところで皆さんは、ご自身の職場の経営状況についてご存知でしょうか?

管理職の方であれば、ある程度把握されているケースもあるかもしれませんが、現場で働く介護士で経営状態までしっかり把握しているケースは稀だと思います。

ただしこの介護施設の経営状況、当然ですが介護士にとっても大事な問題です。

・給与を上げてもらいたい

・賞与を上げてもらいたい

・介護士を増員してもらいたい

こうした、各介護現場の持っている要望の多くは法人の健全な経営、そしてその結果生まれる原資(お金)が確保されて初めて成り立ちます。
ところがこの介護業界の健全な経営が少しずつ難しくなりつつあります。

今回はこうした世間の介護施設の経営状況について、少し掘り下げて記事を書いてみたいと思います。

介護事業所が「倒産する」という現実

もしかすると、この超高齢化社会において「介護施設が経営難に陥る」ましてや「介護施設が倒産する」等という事をどこか他人事に捉えている介護士の方もいるかも知れません。

・介護が必要な人の数を考えれば介護は大丈夫でしょ

・介護の収入源は、介護保険で国が担保してくれるから大丈夫でしょ

このように介護業界に対して、楽観的な淡い幻想を抱いているとひどい目にあうかも知れません。
それは世の中の介護施設の倒産状況を見ていてもわかります。

まず参考にこちらをご覧ください。

老人福祉・介護事業の倒産件数 年次推移

こちらを見てもらうとわかる通り、2018年には年間で106件もの介護事業所が倒産が報告されています。
その前の2年と比較すると若干倒産件数は減少してはいますが、相変わらず100件以上の高い水準で高止まりしている状況です。

※2018年は直近の介護報酬のプラス改定が、倒産減に影響したとも言われています。

「有料老人ホームは大丈夫でしょ!」は思い込み

各事業形態別の数字についても少し掘り下げてみたいと思います。

第1位 訪問介護事業所 (45件)※前年45件

第2位 通所サービス(41件)※前年41件

第3位 有料老人ホーム(14件)※前年6件

こちらを見てもらうとわかる通り、最多が「訪問介護事業」の45件、続いて通所サービスの41件と在宅系のサービスが上位を占めている事がわかります。

その一方で今回の結果で最も気になったのが3位にランクインした「有料老人ホーム」の急増具合です。
前年の6件から14件への2倍以上に跳ね上がっています。

訪問介護や通所介護の倒産の多さは、「事業所数が多い点」や「個人経営も多く資金面に余裕が無い点」を踏まえると、ある種想定通りの結果です。
そんな中、一見豪華な佇まいをして資金面にも余裕のありそうな有料老人ホームまでもが倒産に追い込まれつつあるという事の方が気になる問題です。

また利用者さんやそのご家族の目線で見ても、比較的サービスの乗り換えがしやすい在宅系に比べて、入居系の倒産ともなると与える影響が尋常じゃなく大きなものとなります。

これらの一番の理由は同業他社との競争激化です。
「利用者さんの確保に苦戦」「介護士の確保に苦戦」競争の結果、こうした介護事業者が増え、結果競争に負けた事業所が倒産に繋がっています。
完全に経営基盤の脆弱な事業者を中心に淘汰が進んでいることが伺えます。

「うちの施設は立派で綺麗な建物だから大丈夫」等と言っている場合ではありません。
それこそ明日は我が身です。

オープニングにも要注意「倒産の3割は開設5年以内」

これは介護業界に限った話ではありませんが、倒産する事業所の傾向として「開設5年以内の新しい介護事業所」の割合が多い傾向にあります。

2018年の倒産件数で見れば、2013年以降に設立された事業者が34件となっており、3割以上を設立5年以内の新規事業者が占めています。

また、従業員数では5人未満の事業所がが66件となっており、全体の6割以上を占めています。

・倒産の3割以上が開設5年以内の新規事業所

・倒産の6割以上が従業員5人未満の小規模事業所

このように介護士からも比較的人気のある「オープニング求人」「小規模事業所求人」にもしっかりと注意しておく必要があります。

実際、オープニングで働き始めた介護士さんが
「当初聞いていた給与や賞与がもらえない」と嘆く例も少なくありません。

倒産は最終結果であったとしても、それだけ介護事業所の運営が難しくなってきている事がここからも伺えます。

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一方で売上・利益を伸ばす大手介護法人

こうした競争の過程で、経営に苦しむ介護事業所が多くなりつつある中で、大手の介護事業所は比較的順調な推移をしています。

介護サービス大手各社が2018年3月期決算を発表した。前期比で増収増益となった企業が多く、介護報酬改定への対応を進めて利益水準が回復した法人が目立つ(表1)。

最大手のニチイ学館は、介護・ヘルスケア事業の合計売上高が1511億7600万円(前年同期比2.7%増)、営業利益が145億8500万円(同23.6%増)と増収増益。訪問介護は介護予防訪問介護から総合事業への完全移行に伴い、約300カ所で従前の介護予防訪問介護相当のサービスの提供を取りやめた影響などで1億6900万円の減収。しかし有料老人ホームなどの入居率が91.1%と前期比2.4ポイント改善し、居住系サービスが好調だった。

SOMPOホールディングスの売上高は前期比7.3%増の1250億4700万円。2015~2016年に買収したSOMPOケアネクストとSOMPOケアメッセージの再建・統合の途上にあり、営業損失は14億8500万円。ただし前期の営業損失68億4700万円から赤字幅は縮小している。

2016年にウイズネットを買収したALSOKの介護事業の売上高は、前期比2.8%増の256億3100万円。経営改善が進み、営業利益は1億500万円と前期の3億5400万円の営業赤字から黒字転換した。

(出典)日経ヘルスケア

こちらの記事を見ていただいても分かる通り、中小で苦しむ介護事業所が増加傾向にある一方で、順調に売上・利益を拡大している介護法人も多数存在します。

当然ですが、介護サービスもビジネスであり競争です。
こうした荒波のなか、各法人が四苦八苦している様子が伝わってきます。

最後に

いかがでしょうか。
今回は「中小規模で苦しんでいる介護事業所の例」「大手の順調な介護事業所の例」をご紹介させていただきましたが、もちろんこれが全てではありません。
中小でも非常に順調に運営されている介護事業所はたくさんありますし、一概に規模やサービス形態だけで語る事はできません。

それこそ規模だけでなく「法人格の違い」や、何より「運営者の違い」によって、事業の方向性や行き着く結果は大きく変わります。

 

例えば「安定」という部分のみに着目すれば、一般的には「株式会社」よりも経営上の優遇がされている「社会福祉法人」の方が安定しているイメージが強いと思います。

 

また大手の法人であっても経営者の間違った価値観や方向性が故に倒産に追い込まれるような例も少なくありません。

 

結論、法人格や規模、形態等と一括りに見て、評価する事はできません。
ただし今後は、こうした介護業界内での競争は益々激しく成ることが予測されます。
それだけに、働き手である介護士自身も「条件の良し悪し」だけでなく、経営面は大丈夫なのかについても考えながら働く場所についても、考える必要があるか知れません。

ただし、競争が激しくなるのは決して悪い事ばかりではありません。

①売上確保の為、利用者さんの確保をしなければならない
🔻
②その為に「良いサービス」「適正な体制」が必要になる
🔻
③担い手の「介護士の確保」「介護士の定着」を進めなければならない
🔻
④運営者は従業員を大事にするようになる

このように経営者自身も競争が始まれば好き放題立ち振る舞う事が難しくなります。

良いサービスを提供するために、良い介護士を、そしてその為には働きやすい環境をと、好循環が生まれる事を期待したいところです。
こうしたサービス競争とサービスの質の向上の過程で、介護士の価値も上がっていく事を願いたいと思います。