労働条件

「介護士の給与が上がらない秘密」を本気で考えてみた

早速ですが、介護士のみなさんに質問です。

「自分の待遇に満足していますか?」

「給与が低い」「休みが少ない」「残業が多い」等々、不満を挙げるとキリがないと思います。

そしてその中でも特に「給与への不満」をお持ちの介護士の皆さんは、多いのではないでしょうか?

でも「なぜ給与が低いのか?」

言い換えれば「なぜ給与が上げられないのか?」

この事について、本気で考えてみた事がありますか?

原因が分からないことは、改善できるものもできません。

今回はこの介護業界の給与問題について、私なりの考えを書いてみたいと思います。

介護施設の収益状態はどうなっているのか?

介護施設が儲からずして、介護士の待遇改善は無い

そもそも大前提に「介護施設は儲かっているのか?」

この点をがクリアにならなければ、話が前に進みません。

考えてみれば当然の話です。

給与を上げてくれない経営者や管理者に不満を上げる前に、給与を上げるだけの収益が上がっていなければ、雇用されている立場である介護士の給与が上がるはずもありません。

そしてその肝心の介護事業所の経営状態は…

「安心して下さい。儲かっています!」

これらは、株式上場しているような大手法人の決算や業績を見れば、十分読み取る事ができます。

ただし注意しなければならないのは、「儲かっている」とは言っても、「利益を上げる事ができている法人が大半」だというだけです。

施設形態や法人規模により、運営に苦しんでいる介護施設も存在していますので、自分たちの勤めている介護事業の運営状況については、別途しっかり確認してみてください。

介護施設の収益源は?

では介護施設では、どのような手段で収益を確保しているのか?

これは言うまでも無いかもしれませんが、基本的に多くの介護施設が介護保険制度に則り、保険内のサービスにより利益を出しています。

保険外サービス等、法人独自での大きな収益源を備えているわけです。

何が言いたいのかというと、「様々な問題があると言われる介護保険法ではありますが、構造上、介護保険内でもサービス運営を適切に行えば、運営法人は利益を出すことが可能」になっているという事です。

逆に利益がでなければ、慈善団体意外誰も参入しないわけで当たり前ですけれどね。

職員の人件費は運営法人の肝

これだけを見ると「収益が上がるのであれば、介護士の給与を上げれば良いじゃん!」という現場の声が聞こえてきそうです。

でも運営法人としても「収益が上がった。よし、待遇改善をしよう!」と簡単に踏み切れるものではありません。

特に介護事業での経営のポイントは、コスト管理です。

考えればわかる話ですが、介護事業では売上における介護報酬比率が高く、一度利用者さんが充足してしまえば、それ以降の売上が成長が止まってしまいなかなか青天井というわけにはいきません。

しかしながら収益を上げるには、「売上を上げるか」「コストを下げるか」の二択です。

その売上が片手落ちの状況となれば、運営法人はコスト管理をシビアに行わざるを得ません。

そしてさらに介護事業を営む上で、一番コストがかかる部分が介護士の給与、いわゆる人件費です。

施設形態や法人によりもちろんバラツキはありますが、介護事業所の運営における総経費の55%~75%が職員の人件費だと言われています。

この収益を「大きく左右するコスト」そしてその「コスト中でも肝となる人件費」について、運営法人が着目し、よりシビアになりがちなのは一定仕方のないことではあります。

ただし、この「シビアになる」という部分については、現場を正しく見て評価している介護施設もあれば、現場理解を進めずに配置基準(人数)にばかり目を向け、人を駒としてカウントするだけのような法人が存在するのも事実です。

やはり、低給与の原因は運営法人にあり?

繰り返しますが、多くの介護施設は、介護保険制度に則り収益を上げる事ができています。

また運営法人のコスト管理事情にも理解を示す必要があります。

でもそこまで考慮しても「給与が低い」「待遇が改善されない」という結論にたどり着く介護士のみなさんも多いのではないでしょうか。

事実、「運営法人が過剰に搾取している!」という例も残念ながら一部では存在します。

有料老人ホーム運営の未来設計が経営破綻、その裏側に見える「介護士・利用者からの搾取」こんにちは、ごろにぃ(@goronyi_kaigo)です。 私は、新卒で介護業界に飛び込み11年間介護現場や管理職を経験してきまし...

しかしその一方で問題の根幹は介護保険制度そのもの、要は国にもあるというのが私なりの見解です。

3年毎に行われる介護報酬の改定

ご存知の通り、介護報酬は3年に1度改定が行われます。

そして介護報酬の改定自体は、日々変化のある介護業界を適正化する上で必要かつ重要な事です。

でもそれが、時に介護現場の給与問題に影響してしまうわけです。

着目すべきは、毎回の改定ポイントの一つに「利益を上げているサービス形態の報酬が削減される傾向にある」ということです。

明確にこうしたルールがある訳ではありませんが、傾向としてそうしたものが見て取れます。

2015年の小規模デイを対象にした介護報酬マイナス改定【例】

(改定前)小規模デイは利益率10%程度の比較的収益を上げやすいビジネスモデルだと言われおり、多くの介護事業所が積極展開

(改定後)の介護報酬改定のタイミングで、小規模デイの介護報酬が一気に10%削減

収入の軸である介護報酬が10%も削られてしまう事で、多くの小規模デイが閉鎖に追い込まれ、その後の参入が格段に減少しました。

こうした事が何を意味するのか?

「介護保険制度に則り、現場や運営法人が日々サービスを改良し、利益を上げる仕組みを作り上げたとしても、3年に1度の介護報酬改定のタイミングで、一気にその仕組が崩壊し、厳しいと状況に陥る可能性がある」という事です。

これでは完全に現場の努力が水の泡ですね(苦笑

その為、介護事業所の運営法人の多くは、常にこの介護報酬改定のタイミングを怯えながら待っています。

常にそんなリスクと隣合わとなっている運営法人が、介護士の給与を大幅に改善させるという事は、非常にリスクを伴う行動になってしまい、運営法人も待遇改善に躊躇してしまうわけです。

実際、一度上げた給与を報酬改定があったからと下げるのは非常に困難ですからね。

こうした側面に目を向けると、介護士の給与問題については、一概に運営法人が悪いとは言えないと個人的には思っています。

■介護報酬改定時の悪循環例

①介護施設の経営努力で事業所収益が向上

②介護報酬で収益率が高い運営(施設)形態がマイナス改定される

③収益を上げる事ができていたビジネスモデルが崩壊

④各運営法人は、報酬改定に怯え積極的な利益還元(給与UP等)ができない

使われ方が曖昧な「処遇改善手当」

また介護士の待遇改善を目的にした「処遇改善手当の使われ方」についても大きな問題が残されています。

処遇改善については、各種条件に合わせて個人でなく運営法人に支給されます。

その「国から支給された処遇改善手当の現場内での支給方法(配分)の大半は運営法人に委ねれます。」

こうした結果、「従業員に平等に手当が支給されていない」「元々法人内で運用予定であった昇給や賞与の原資として処遇改善が使われてしまう」等、本来は規定給与の上積みとして想定されている処遇改善が実態とは異なる支給になっていいるケースがあります。

もちろん処遇改善の支給について、報告義務はあるものの一部では野放し状態です…

■処遇改善手当支給における悪い例

①管理者層や古株介護士等に過度に偏った支給行われる

②処遇改善の給与UPする分、規定の給与を削減(結果給与上がらず)

③「介護士のみに支給」や「他職種にも支給」かで支給幅が大きく異なる 等

この点については、運営法人にももちろん原因がありますが、支給する国としても、もう少し支給方法に制限を設ける等の工夫が必要なのではないでしょうか?

実際同じ処遇改善を受けたとしても、勤務先や立場によって受けることのできる恩恵に大きな差が生じてしまっているのが実情です。

「処遇改善が進まない理由」には国も影響している

2つほど例を上げましたが、これらから「国の介護報酬改定に振り回される運営法人」と「介護施設側に裁量権がありすぎる国の処遇改善」という2つの問題が見え隠れします。

そもそもの財源の大半が国から支給されるわけですので、国の影響が大きいというのは当然なのですが、単純な金額だけでなく制度上の問題もあるという事です。

単純に運営法人の責任だけでなく、こうした介護保険法をはじめとした国の定めたルールにも目を向けていく必要があります。

「介護士の給与が上がらない秘密」のまとめ

繰り返しますが、介護施設の多くはしっかり利益を上げる事ができています。

そして職員の待遇を改善させるだけの余裕がある施設もたくさんあります。

しかしながら、「コスト管理のシビアさ」や「待遇改善の必要性の理解が足りず」運営法人が給与アップに目を向ける事ができていません。

そこに拍車をかけるのが国(介護報酬の改定)に怯えて、待遇の大幅UPには踏み出せない運営法人の実態です。

もう少し運営や現場に優しい仕組みや制度変更であれば、運営法人を前向きな施策が打てるんですけね。

まずは運営法人が人に投資するという考えをしっかり持つこと。

その上で、国が介護報酬を抜本的に底上げし、運営法人を安定させる事ができない限り、現場が体感できるレベルの恩恵を受ける事は、非常に難しいと言えます。

法人毎の課題だけでなく、3年に1度の報酬改定の中身や処遇改善手当問題等、国としての改善の余地は十分にあります。

経営者に処遇改善も訴えることも必要かもしれませんが、やはり国を動かさないと難しい問題です。

国に訴える為にも、現場の小さな声を集めて大きな声にする事が非常に重要になります。

ぜひこうした現場の声を広げてもらえると幸いです。