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介護施設への期待値が上がり過ぎでは…「転倒死亡に対し2,800万円賠償」

こんにちは「介護コンサルをしながら、現役介護士を両立」がモットーのごろにぃ(@goronyi_kaigo)です。

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「介護施設での事故を原因とした賠償事例」が、ここのところ増えつつあります。
そして今回また「介護施設での転倒事故による死亡」について、賠償判決が下されることになりました。

こうした判決を見る度に「しっかりと事故防止の意識を高めないといけない」と感じるとともに「介護サービスへの期待値ばかりが過剰に上がっているのでは?」と感じずにはいられません。

今回は、そんな介護現場での賠償判決事例をもとに記事を掘り下げてみたいと思います。

「利用者さんの転倒死亡に対し2,800万円の賠償命令」の概要

まず今回の事故について、ニュース記事を引用していますので、ご覧いただければと思います。

介助不足で複数回転倒し死亡 施設に2800万円賠償命令

京都市山科区の介護老人保健施設「アビイロードやましな」の入居者男性=当時(82)=が、職員の介助不足により複数回転倒して死亡したとして、遺族が施設を運営する医療法人「稲門会」(左京区)に約4800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が31日、京都地裁であった。島崎邦彦裁判長は、職員の介助義務違反があったとして同法人に約2800万円の支払いを命じた。

島崎裁判長は、男性が重度の認知症を患っており、転倒のリスクが高いと指摘。施設に入所後、約20日間で3回転倒していたとして、2回目以降の転倒は「頭部を直接床に打ち付け、重大な結果を生じさせる危険が極めて高い状態にあった」と認定した。その上で、男性が歩行する際に職員が付き添い、介助していれば死亡に至る転倒を防げたとした。

判決によると、男性は2015年8月に施設に入所し、同年11月13日、施設内で転倒。翌日に搬送先の病院で両側前頭葉脳挫傷で死亡した。

(出典)京都新聞 2019.5.31

事故のあった「アビイロードやましな」とは?

ちなみに今回事故のあった「介護老人保健施設アビイロードやましな」についても少し調べてみました。

運営法人は、いわくら病院を基盤とした「医療法人稲門会」

「稲門会」(社会福祉法人レモングラス)の運営事業所

  • いわくら病院
  • 介護老人保健施設「アビイロード」
  • 介護老人保健施設「しずはうす」
  • 介護老人保健施設「フェアウインドきの」
  • 特別養護老人ホーム「そらの木」
  • 訪問看護ステーション「いなほ」
  • 訪問看護ステーション「こくーる」
  • 就労継続支援B型施設「いきいき・いわくら」

このように事故のあった「介護老人保健施設アビイロード」は医療法人稲門会傘下の老健となっています。
母体の稲門会は、こちらの通り、病院を基盤に介護老人保健施設を3事業所、特別養護老人ホームを1事業所、訪問看護ステーションを2事業所、就労継続支援施設を1事業所と地域に密着しながらも、幅広く事業展開をされていた法人である事がわかります。

「アビイロードやましな」は認知症対応に積極的な老健

今回は認知症の方の転倒が死亡に繋がったという事ですが、このアビイロードやましなでは、入所定員100床の内、64床が認知症専門病棟として運営されており、認知症ケアについても積極的に取り組まれていたことがわかります。

今回の事故については、それだけ認知症への対応やリスクに対して、理解があったであろう法人であっても起きてしまったという事です。

世間から高まり続ける介護サービスへの期待値への危惧

肝心の今回の事故について、掘り下げて考えた時に一番に感じる事、それはやはり「介護サービスへの期待値が上がり過ぎているのではないか?」というものです。

今回の判決についてもよく見てください。

男性が歩行する際に職員が付き添い、介助していれば死亡に至る転倒を防げた

この言葉に全てが凝縮されていると思っています。
確かに転倒が死亡の原因であったのかも知れません、そして介護施設側では可能な限り転倒を予防する為の措置は必要です。

ただし「職員が付き添い、介助していれば防げた」と簡単に言える程、介護現場の現実は甘くありません。

どこの介護施設を見回しても1人の介護士に対する利用者さんの数は2〜4名程度、多ければ5名以上、それが夜勤帯ともなれば20名以上に登るケースまであります。
今回の判決のように、利用者1人ずつ介護士が付き添い介助するには、他の利用者さんが動かないよう拘束するくらいの選択肢しかありません。
更にそれが認知症で徘徊のある利用者さんという事になればそれは尚更です。

それぐらいギリギリの環境下で、何とか事故を最小限に止めようと試行錯誤しているのが多くの介護現場の実情です。

介護施設だからプロの介護士がいる、プロの介護士がいるから絶対転倒を起こしてはいけないという程、簡単な環境ではなく、介護現場の期待値ばかりが上がっていくことには、不安しかありません。

よくこういう記事を書くと「介護士のくせに無責任だ」等と批判をいただく事があります。

ただし、これが現実です。

もちろん事故が起きないように最大限の配慮はするべきですし、事故を起こしても良いと思って介護現場がケアに当たっている訳ではありません。それでも物理的に事故をゼロにできるような環境が、介護施設だからと言って用意されているわけではありません。

こうした判決が導く、介護業界の末路

そして、今後こうした判決が続くと様々なリスクを伴う事にもなってしまいかねません。

介護事業所が徘徊や事故リスクのある利用者さんを受け入れなくなる

実際、既に事故リスクの観点から、本来なら受け入れられるような利用者さんでも過剰に事故を危惧し受け入れを拒否しているような介護施設も存在します。
もはやそれは自然の流れだと言わざるを得ません。

こうした結果のしわ寄せは、介護が必要な利用者さんやその家族に及びます。

本来はこうした事故リスクがある高齢者程、家庭での介護が難しく、介護サービスの利用を求めていたりするものです。
これでは残念ながら本末転倒ですね。

益々進む介護士の離職

そしてこうした期待値が上がり、リスクばかりを押し付けられる介護の仕事を前向きに取り組める介護士がどれだけいるでしょうか?

特別に給与が高いわけではない、でも期待値は高く、そしてリスクも伴う。

そんな事では、介護業界自体の先細りが心配になります。

最後に

皆さんは今回の事故の判決に対しては、どのように考えていらっしゃるでしょうか?

繰り返しますが、事故は起こすべきではないですし、起こさない為に介護現場は努力する義務はあります。

でもそれが、今回の判決のように事故は100%起きない、起こさない事が義務だという判決が出てしまうと、介護現場にとってはなかなかツライ所です。

それこそ、司法がそうした判決をするのであれば、そうした環境構築ができるだけの財源が介護現場に無ければありません。しかしながら現在の介護保険制度では、そこまでの財源を確保する事ができず、またそこまでの人員配置基準にもなっていません。

こうした事故を通じて、同じ失敗を繰り返さないように心がける事は大事なことですが、現場で働く介護士のモチベーション低下や過剰な利用者選定による介護難民が生まれるよな結果に繋がらないように願います。