こんにちは「介護コンサルをしながら、現役介護士を両立」がモットーのごろにぃ(@goronyi_kaigo)です。
介護現場ではよく
「利用者さんの為に…」
「利用者さんに寄り添って…」
という言葉が飛び交います。
介護事業はサービス業ですので、お客様である利用者さんの声に耳を傾ける事は大事なことですし、自然なことです。
ただし、この「利用者さんの為に」「利用者さんに寄り添って」という考え方について「過剰な捉え方をしているのではないか?」と感じるケースを度々見受けます。
そして過剰な捉え方による、過剰なサービスの結果、しわ寄せを受けている介護士の姿を垣間見る事も少なくありません。
今回はこの「利用者さんの期待に応える」と「利用者さん言いなりになる」の違いについて、記事を書いていきたいと思います。
「利用者さんの要望にNOを言わない」という理念はあり?
この前「利用者さんの要望にNOを言わない」という理念の介護施設に行ってきた。
サービス業としての一つの在り方かもしれない。でも見方を変えれば「介護士はYESとしか言わない」という事。
個人的に仕事として、そこで働きたいとは思えない。
— ごろにぃ@介護コンサル (@goronyi_kaigo) May 5, 2019
先日このようなTweetをしましたが、利用者さんに寄り添うという思いを「利用者さんの要望にNOを言わない」という理念に変換している介護施設を稀に見受けます。
利用者さんの要望に「NOを言わない」とすると、様々な事が想定されます。
・利用者さんの暴力、暴言を許容しなければならない
・利用者さんの希望するタイミングでケアを進めなければならない
(食事、入浴etc、全て利用者さんのタイミング)
・利用者さんの行きたい所に行き、食べたい物を提供しなければならない 等
こうした利用者さんの要望が全て通るのであれば、利用者さんにとっては好きな時に好きな事ができ、一時的な満足度は上がるかもしれません。
ただし、これらの背景には「介護士の負担」「利用者さんの事故リスク増大」等の大きな弊害が伴います。
こうした事を冷静に考えれば「利用者さんにNOを言わない」という極端な理念については、個人的に疑問を抱かずにはいられません。
「利用者さんの言いなり」の負担は介護士へ
上でも書いた通り、「利用者さんの要望にNOを言わない」という理念を始めとした「利用者さんの言いなり」にケアを進めようとする方針の過程では、現場の介護士に対して、膨大な負担とストレスを強いる事になります。
介護士の過剰労働の促進
利用者さんの要望に「NOを言わない」という事は、大きく捉えれば「介護士はYESとしか言えない」という事です。
・今日は昼から入浴したいと言う利用者さん
・今日は早めの16時に夕食を摂りたいと言う利用者さん
・明日は遠方まで演劇を見に行きたいと言う利用者さん
こうした要望に全て「YES」で応えようとすれば、当然ながら介護士の業務量は増大します。
結果、介護士の残業や休日出勤が増大する事は目に見えています。
また最終的に、こうした負担を強いられた介護現場では、介護士が辞めていきます。
ただでさえ人手が必要な方針を掲げながら、退職が促進されるようでは、先行きは真っ暗です。
介護現場での事故リスクの上昇
また「利用者さんの言いなりになる」と事故のリスクも上がります。
本来、介護現場のシフトというのは、利用者さんの要望もさることながら、介護士側の時間毎、日毎の動き方を想定した上で組まれています。
しかしながら、利用者さんの要望にばかり目を向け、介護士の動きや状況に目を向ける事が疎かになれば、介護士の手が回り切らず、事故に繋がるリスクが上がります。
また本来、利用者さんのコンディションに合わせて、無理をさせるべきでない事を何でもやろうとする事で、事故に繋がる事も少なくありません。
最終的に、こうした事故リスク上昇により、いざ事故が起きてしまっても、その責任は介護士に降りかかるという悪循環が起きてしまいます。
・人手が足りない時に無理なケアをする
・利用者さんのコンディションを加味せず、無理な予定を組む
➡結果「事故が起きる」、そして責任は全て現場の介護士
これでは完全に本末転倒です。
「耳を傾ける」と「言いなり」は別モノ
このように何でもかんでも「利用者さんの言いなり」になってしまっていては、介護現場がうまくまわる事はありません。
ただしその一方で「利用者さんの要望に耳を傾ける」という事をしなければ「利用者さん度外視」の介護士本位のサービスになってしまいかねません。
大事なのはこのバランスです。
サービス業でも「できる事」「できない事」がある
サービス業であったとしても
「できる事」と「できない事」
「やるべき事」や「やるべきでない事」
があるという事を介護施設側が十分に理解しておくことが大事なのではないでしょうか。
何でも「できる!」「やろう!」では、上でも書いた通り現場の介護士が全てに対応するのは難しく、結果事故のリスクも上がってしまいます。
「サービス業である以上、利用者さんが求めれば何でもやろう」
ではなくて、
「できる範囲を見極めて、できる範囲で利用者さんの求めに応えよう」
とする事が継続的にサービス業を営む上では大事なことです。
耳を傾けた上での提案が介護士の仕事
さらに言えば、利用者さんの要望に対して言われたままに行動を取るのでなく、難しい要望に対して、できる範囲での落とし所を考えるのもポイントです。
利用者さんの要望に対して
「どのように代替え案を検討するのか」
「どのような誘導をすれば納得してもらえるのか」
こうした事を試行錯誤するのも介護士の大事な仕事であり、介護士としての必要なスキルです。
最後に
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回記事に書いたような「何でも言いなり」という所まで過剰なサービスを行っている介護施設は、そう多くはないと思います。
ただし「利用者さんの為に」という枕言葉を付ける事で、全ての要望を応える要望だとして現場の介護士に強いている介護現場も少なくありません。
繰り返しますが、
「利用者さんの為に」と考える事には当然の事で、必要な事です。
でも同時に
「現場介護士への負担」「できる範囲」を見極める事が仕事としての介護です。
それこそ「利用者さんの為に」という言葉だけでなく、「従業員の為に」という言葉が当たり前に飛び交う介護施設が増えれば、前向きに仕事に取り組める介護士が増え、自ずと利用者さんへのサービスも向上するのではないでしょうか。
多くの人は自分に満足が無い中で、周囲の人間に満足を与える余裕を持つことができませんからね。
少し話が飛躍しましたが、本記事が介護現場での「利用者さんの期待に応える」の意味について少しでも考える機会となれば幸いです。