こんにちは、ごろにぃ(@goronyi_kaigo)です。
先日、高齢者虐待についての最新情報が厚生労働省から発信されましたね。
そしてその情報を元に、多くのメディアがこの「高齢者虐待」を取り上げています。
高齢者虐待の実態
こちらが厚労省から発表された「高齢者虐待」に対してのメディアの反応の例です。
■高齢者虐待が過去最多、「介護職員から」12%増
厚生労働省は26日、2017年度の高齢者に対する虐待件数について、介護職員による虐待が510件(前年度比12・8%増)、家族らによる虐待が1万7078件(同4・2%増)で、06年度に統計を取り始めて以来、それぞれ最多を更新したと発表した。職員による虐待は11年連続、家族らによる虐待は5年連続で増えた。
虐待に対する意識が高まり、自治体への通報件数が伸びていることや介護現場における人材不足が背景にある。
職員らから通報や相談を受けたうち、自治体が虐待と認定した件数を集計した。
職員による虐待を受けた人のうち、最も多かった内容(複数回答)は、殴るなどの「身体的虐待」(59・8%)。次いで、暴言を吐くなど「心理的虐待」(30・6%)、「介護放棄」(16・9%)などが多かった。
1件で複数が被害にあう事例もあるため、虐待を受けた人数は少なくとも854人で、このうち女性が約7割を占めた。死亡事例はなかった。発生要因は、「教育・知識・介護技術の問題」、「職員のストレスや感情コントロールの問題」の順で多かった。
一方、家庭内の虐待では、1万7538人が被害にあった。虐待の疑いを含めて28人が死亡した。加害者は息子(40・3%)、夫(21・1%)、娘(17・4%)の順で多かった。理由は「介護疲れ・介護ストレス」が最多だった。
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190327-OYTET50008/
【引用元:yomiDr.】
「高齢者虐待」は介護業界ではなく国の問題
まず、この記事のタイトルは「介護職員から12%増」と介護職員をフォーカスしたものとなっています。
ただ中を見てもらうとわかるように、この虐待問題は「介護業界の問題」というよりは「国の問題」となっています。
・介護職員による虐待:510件(前年度比12・8%増)
・家族らによる虐待:1万7078件(同4・2%増)
虐待数の増加率を見れば、「家族4.2%増」に対して「介護職員12.8%増」となっていますので、確かに介護職員の増加率の方が高い状況にあります。
ただし絶対数を見てもらうと分かる通り虐待件数が「介護職員510件」に対して「家族1万7,078件」となっており、介護職をどうするか?というよりは、国としてどうするか?という点を考える必要があります。
この調査数字をどう読み取るか
増え続ける高齢者と介護サービス利用者
またこの数字を「どう読み取るか」についても、考えるべきです。
単純に「数が増えた」という部分だけを切り取って「虐待をしてしまう程度の低い介護士や家族が増えた」という事だけを切り出すのは賢明ではありません。
虐待の絶対数が増えているのはもちろん事実ですが、同時に介護サービスの利用者数、そもそも高齢者数自体が急速に増加していますので、同じ割合で発生するだけで虐待数が増加するというのが今の構図です。
その点や幼児虐待の増加とはいささか違う点です。
介護施設はじめ世間が敏感になっている
また昨今のこうした虐待問題については、昔以上に敏感な問題として世の中的に受け止められるようになっています。
昔なら声に上がっていなかったような虐待問題でも、最近では声に上がる傾向にあるのは間違いありません。
「問題行動」が行われている事に間違いはなのですが、今回の数字だけを見て
・問題ある介護士が増えている
・親の介護さえしっかりしない家族が増えている
等と決めつけけるのではなく冷静に見る必要があるかも知れません。
「介護施設だから大丈夫」だという期待と現実
そして今回の報道で少し気になったのが、やはり「介護職だから虐待なんてあるわけない」とする考え方が世の中に浸透しているという事です。
明確にそのような表現が使われている訳ではありませんが、基本的のどのメディアも「高齢者虐待の増加」というよりは「介護職による虐待の増加」にスポットを当てた記事の書かれ方がしています。
上の記事のタイトルと見てもわかりますね。
■高齢者虐待が過去最多、「介護職員から」12%増
「介護職の虐待500件」と「家族の虐待1万7千件」という状況について、母数の圧倒的に小さな介護職の虐待の12%増加率を記事タイトルにするくらいですから。
それだけ「介護職の虐待」には世間も敏感だという事です。
もちろん介護現場での虐待は到底認められるべきではありません。
ただ、介護士も人間です。それこそ現場に携わる介護士として私自身も認知症の利用者さんに対して感情的になってしまった事があります。
もちろん「虐待」という行為には、及んではいませんし、ここの線引ができるかどうかが大きな違いです。
また「家族からの虐待件数が1万5千件以上登る」という事実が介護の難しさを物語っています。
あまりの余裕の無さから、
・自分の大事な家族であっても虐待という行為に及んでしまう。
・家族だからこそ、感情的になり怒りを覚えてしまう。
等、様々な見方ができます。
またそこに至る背景についても様々で、利用者さんからの暴言暴力に苦しむ介護士がいるのも事実です。
虐待を正当化はできませんが、「虐待の数が増えている」という事実だけに着目するのではなく、そこに至る背景や介護の現実についての理解が進まない限り、この虐待問題が改善に向かう事はありません。
虐待の多さを嘆いても始まらない
そしてこうした虐待は、ほとんどのケースで介護する側の「余裕の無さ」がきっかけになっています。
問題は「数の多さというよりも、ここに至るプロセス」です。
「虐待はダメ」「でも介護士は足りない」と言っているだけでは虐待がなくなるはずもありません。
これではひたすら「介護者にだけに責任がのしかかる」という悪循環です。
これは家庭であれ介護施設であれ同様です。
繰り返しますが、虐待自体は問題です。
ただし介護サービスを受ける環境、そして介護現場が余裕を持てる環境が作られずして、虐待が減るはずもありません。
減少させる為の環境が作られていないにも関わらず、増加したという結果にだけスポットを当ててもどうしようもないという事です。
また「虐待するなら介護士はするな」というのはもちろん正論です、そこには私も同感です。
そして虐待対策の研修を受ける事も大事です。
利用者の状態を理解する事も大事です。
こうした現場での対策は取られる事が大前提です。
でもどうやって虐待を無くすのかを考えた時に、一番の打ち手はやはり「介護サービスの拡充」とその為の「介護士の増加」でしかありません。
介護士が増加して、初めて介護サービスが幅広く使えるようになる。
介護士が増加して介護士に余裕が生まれる。
当たり前のことですが、これが浸透せずして虐待問題を嘆いても始まりません。
起きてしまった「虐待件数」を問題視する事以上にここへの打ち手を考える必要があるのは言うまでもありません。